取組進行に応じて

 本場所での触れごと(口上)と言えば、「結びの一番」の触れや「これより三役」の触れを良く聞く。ほかに、十両最後の一番にも触れごとがあり、場所中には新弟子の出世披露の口上もある。本稿では、各日の取組進行に応じた“口上”を集めてみた。
 なお、ほかに「取り直し」などの不規則事項があるが、それらは別稿にゆずる。

・初っ口(当日最初の取組)

 その日の最初の取組を始める時(通常は序ノ口の取組、前相撲がある場合はその取組)、まず、呼出しが力士を呼び上げる。続いてその取組を裁く行司が団扇を垂直に立て、次のように述べる。

 東西とうざい

 「口上」と言うには短いが、言わば取組開始の“儀式”である。
 この「東西」は、本場所に限らず、巡業や引退相撲などの「花相撲」でも、その日最初の取組を裁く行司が述べる。

・力士呼び上げ

 通常、まず呼出しがシコ名を呼び上げ、続いて行司が呼び上げる。呼出しと行司の呼び上げ方は違う(ここでは行司のみ取り上げる)。前述の「東西」を述べた場合は、直後の動きとなる。この場合は、呼出しが力士を呼び上げ→行司の「東西」→行司が力士を呼び上げ…となる。
 ちなみに、呼び上げに限らず、十両・幕内土俵入りの順番もそうだが、初日・三日目…千秋楽といった「奇数日」は東から、二日目・四日目…十四日目といった「偶数日」は西から順に呼び上げる。
 まず、初日最初の取組(序ノ口)に、橋本(東)と松葉(西)対戦したとすると、次のようになる。

 橋本に、松葉

 通常の取組は「一声いっせい」と言い、シコ名は1回しか呼び上げない。それに対し、三役(小結以上)の対戦は、「二声にせい」と言い、2回呼び上げる。これは三役同士の対戦ではなく片方が平幕であっても、三役と対戦する場合は同様である。東西どちらにも三役力士がいない場合は、一声で呼び上げられる。
 垣添(東前頭3)と安馬(西関脇)が奇数日に対戦したとすると、次のようになる。

 かたや垣添、垣添、こなた安馬、安馬

 単に2回呼び上げるだけでなく、「かたや」と「こなた」を付ける。

・勝ち名乗り

 勝敗が決したと見ると、行司は勝った方屋に向け、団扇を上げる。行司・力士は定位置に下がり、立礼する。行司は勝ち力士に向きを変え、シコ名を呼び上げる。上記取組で安馬が勝ったとすると、次のようになる。

 安馬

 勝ち名乗りについては、横綱であろうが序ノ口であろうが、シコ名を1回だけ呼び上げることに変わりはない。また、対戦相手が休場した場合は不戦勝となるが、その場合も勝ち名乗りは上げられる(その前に「不戦勝」の垂れ幕を、呼出しが土俵上で掲げる)。双方が休場した場合は、両者不戦敗となる。さて、その場合はどうなる!?
 千秋楽「これより三役」の取組の場合、最初の取組の勝者には「矢」、次の取組(結び前)の勝者には「弦」が渡される(らしい)。結びの勝者には何もない(いずれの場合も、懸賞金は別である)。
 「これより三役」の勝者に限り、勝ち名乗りは通常の場合と変わる。琴光喜と千代大海が対戦し、琴光喜が勝ったとすると、次のようになる。

 役相撲にかのう、琴光喜

 千秋楽結びの三番は、それぞれ小結・関脇・大関の一番に相当する。もともとは「小結に叶う…」などと述べていたわけだが、三役が東西1人ずつから張出が設けられると複数になり、番附とのずれが生じた。現在は上記のとおり、「役相撲に叶う…」と述べられている。

・新序出世披露言上(出世触れ)

 場所前の新弟子検査に合格(発表は初日)した力士は、3日目以降に前相撲を取る。2勝した力士から順に「出世」となり、「出世披露」が行なわれる。新弟子の人数によって「出世披露」の回数が異なるが、3月場所以外は中日(8日目)に、新弟子が多い3月場所は5・9・12日目にそれぞれ「一番出世」・「二番出世」・「三番出世」として披露される。なお、前相撲は新弟子以外にも序ノ口で休場し、番附外に陥落した力士も取るが、既に出世披露は済んでいるので、陥落者の出世披露は行なわれない。
 出世披露は通常、前述日の三段目取組の途中で、審判交代の前に行なわれる。出世力士は、兄弟子や師匠の化粧廻しを借り、一人ずつシコ名・所属部屋が紹介される。御前掛りの土俵入りのように整列するが、四股は踏まず、シコ名を紹介されても土俵を一人ひとり降りない。
 全員の紹介が終わると、行司は力士の後ろに立ち、「新序出世披露言上」を述べる。ここでは、幕下以下の行司が、団扇ではなく白扇を持って言上する。文言は次のとおり。

 これに控えおります力士儀にござります。ただ今までは番附外に取らせおきましたるところ、当場所、日々成績優秀につき、本日より、番附面に差し加えおきまするあいだ、以後、相変わらずごひいき、お引き立てのほど、ひとえに願い、上げ奉ります。

 「日々成績優秀」とあるが、全敗であろうが、一番でも前相撲を取れば“出世”する。
 口上を述べる行司は入門からいくらも経っていない場合が多い。少年行司にとっては、これが初の晴れ舞台となるため、力士以上に緊張感が漂う。こういった“儀式”を経て、部屋や一門の土俵開きで「方屋開口」を述べられるように成長していくのである。

・十両最後の取組(中跳ね)の触れ

 三役の対戦以外に、十両最後の一番でも「二声」で力士を呼び上げる。これは十両最後の一番を強調しているわけではなく、大正15年までは幕内の取組が「中入り」の前後に分かれ、それぞれに横綱・大関の取組があった名残である。中入り前の取組を「中跳ね」とも呼ぶが、即ち、“中入り前の結び”と言うことである。
 また、この一番には「触れ」がある。嘉風と土佐ノ海が十両最後の一番で対戦したとすると、次のようになる。

 かたや嘉風、嘉風、こなた土佐ノ海、土佐ノ海
 この相撲一番にて、中入り

 一行目は「二声」に共通する呼び上げである(三役の対戦もこの形式)。二行目が「中跳ね」特有の口上である(以降の項目では、呼び上げの次の部分が変化していく)。

・顔触れ言上(顔触れ)

 「幕内土俵入り」と「横綱土俵入り」が終わると、「中入り」と呼ばれる休憩になる。その間、立行司は翌日の幕内取組を土俵上で披露する。翌日幕内の土俵に上がる「顔触れ」(割り)を披露するわけだが、この儀式全体を「顔触れ」とも呼ぶ。
 「顔触れ」は、取組進行に余裕がない場合は行なわない。また、千秋楽の取組は中入りの時点では編成中のため、14日目には行なえない。当然ながら、千秋楽にも行なわない。なお、天覧相撲の場合は、進行状況に関わりなく行なうことになっている。
 土俵上に設置されたマイクに向かい、次のように述べる。

 はばかりながら、明日みょうにちの取組をご披露つかまつります

 割りが書かれた紙を1枚ずつ取り上げ、通常発表されるとおり、下位から上位の順に披露する。まず、自分の手許で割りを見ながら1番ずつ読み上げる。ちなみに、割りの順も偶数日・奇数日の順に倣い、たとえば初日に「顔触れ」を行なう場合は、二日目の分を披露するので、西から東にシコ名が書かれている。披露の例は次のとおり。

 北勝力に、土佐ノ海

 1枚呼び上げるたびに、東・正面・西、最後にもう一度正面に披露し、脇に控える呼出しに手渡し、呼出しも各方面に披露する。
 この調子で結びまで披露し、終わったあとに次の口上を述べる。

 右、相つとめまするあいだ、明日も賑々しく、おいでを待ち奉ります

 「おいでを待ち奉ります」の部分は、「ご来場お待ち申し上げます」とも変わるようだ。

・これより三役

 千秋楽のみに行なわれる。結び三番に登場する力士が、東方・西方それぞれ3名ずつ「三役揃い踏み」を行なう(本来は「揃」うはずだが、最近は拘らない力士が多くなり、あまり美しくない)。
 揃い踏みが終わると、呼出しが(拍子木)を入れ、「東西とざい東西とうざいと掛け声を述べる。続いて、行司が前に出て、力士の呼び上げと口上を述べる。琴光喜と千代大海が「これより三役」最初の取組で対戦したとすると、次のようになる(シコ名呼び上げのあとにも柝が入る)。

 かたや琴光喜、琴光喜、こなた千代大海、千代大海
 これより三役にござりまする

 実際には、「ござります『る』」とははっきり聞こえない。「ござります」と書いてしまっても良いかも知れない(以降の項目も「ござりまする」と表記する)。
 以降の手順は他の取組と変わらないが、勝ち名乗りの項にも書いたとおり、勝敗が決したあとは、「役相撲に叶う」勝ち名乗りが上げられる。

・結びの触れ

 結び前の取組は、通常と変わらない。「これより三役」の場合だけ、やはり勝ち名乗りが変わる。
 結びの場合は、千秋楽に限らず、「結び」を示す口上がある。全部で3種類あり、それぞれ例を挙げる。まず、初日〜十四日目までである。朝青龍と豊ノ島が初日結びで対戦したとすると、次のようになる(柝が入る箇所は「これより三役」と同じ)。

 番数も取り進みましたるところ
 かたや朝青龍、朝青龍、こなた豊ノ島、豊ノ島
 この相撲一番にて本日の、打ち止め

 「この相撲一番にて」と「本日の」は続けて述べるべきだが、「にて」でいったん切る場合もある。なるべく続けて言っていただきたいが…。また、「本日の」のところで柝が入る。
 同じ初日〜十四日目まででも、御前相撲(天皇臨席の場合=「天覧相撲」と、皇太子臨席の場合=「台覧相撲」がある)の場合、3行目の部分が変わる。朝青龍と琴奨菊が、中日(八日目)天覧相撲の結びで対戦したとすると、次のようになる。

 番数も取り進みましたるところ
 かたや琴奨菊、琴奨菊、こなた朝青龍、朝青龍
 この相撲一番にて本日の、結び

 通常「打ち止め」と述べるところを、「結び」で結んでいる。天皇や皇太子以外であれば、たとえ皇族が来ようと通常と変わりなく「打ち止め」である。
 最後に、千秋楽の場合である。千秋楽には、「本日の…」とは述べない。その日の興行ではなく、その場所全体で最後の取組(優勝決定戦は別として)だからである。朝青龍と白鵬が千秋楽結びで対戦したとすると、次のようになる。

 番数も取り進みましたるところ
 かたや朝青龍、朝青龍、こなた白鵬、白鵬
 この相撲一番にて、千秋楽にござりまする

 この場合は、「この相撲一番にて」のところで柝が入る。行司によっては「この相撲一番にて、千秋楽」と述べる人もいたらしい。先述のとおり、これらの口上には“規定”があるわけではない。しかし、現在は“暗黙の諒解”(?)によって、「ござりまする」を付ける。

・弓取り

 結びの一番に引き続き、引き続き「弓取式」が行なわれる(弓取り力士については、「弓取り力士一覧表」参照)。これは勝ち力士に代わって行なう儀式であるから、弓取りの力士は、勝ち力士の方屋から土俵に上がる。
 まず、結びの一番で勝負が付く。行司は勝ち力士に勝ち名乗りを上げ、一度定位置に戻り、呼出しから「弓」を受け取る。続いて次の口上を述べ、弓取り力士に弓を手渡す。結びで朝青龍が勝ち、男女みなノ里が弓取り力士だとすると、次のようになる(勝ち名乗りは省略)。

 朝青龍代、男女ノ里

 「勝った朝青龍に代わって、男女ノ里が弓を振る」というような意味である。
 千秋楽の場合は「これより三役」(役相撲・大関に叶う)の取組なので、口上もそれに応じて変わる。白鵬が勝ち、男女ノ里が弓取りをする場合は、次のようになる。

 役相撲に叶う白鵬代、男女ノ里

 弓取りを最後まで見守り、土俵を降りる。これにて「打ち出し」、またのご来場をお待ち申し上げます(不規則事項編「審判による協議を経て」へ)。

制作・著作:紅葉橋律乃介 口上入口へ 行司入口へ 銀河大角力協会総合入口へ

平成十九年六月二十五日新設

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